アナボリックステロイド使用後に性欲が落ちる理由とは?ホルモン低下との関係を解説
監修:医師・薬剤師監修
「ステロイドサイクルを終えたら性欲が急に落ちた」
「使用中は調子が良かったのに、中止後は勃起しにくくなった」
「テストステロンはどのくらいで元に戻る?」
アナボリックステロイドの使用中は、性欲や活力が高まったように感じる人がいる一方で、使用を中止した後に性欲低下、ED、疲労感、気分の落ち込みなどが現れることがあります。
これは、外部からアンドロゲンを取り入れたことで、体内のテストステロンを作る仕組みが抑えられるためです。
結論から言うと、アナボリックステロイド使用後に性欲が落ちる主な理由は、脳から精巣へ送られるホルモンの指令が抑制され、自己テストステロンの産生が低下するためです。
使用をやめても、自分でテストステロンを作る機能がすぐに回復するとは限りません。
回復までの期間には大きな個人差があり、数週間から数か月で改善する人もいれば、症状が長期間続く人もいます。
この記事では、アナボリックステロイド使用後に性欲が低下する仕組み、EDや気分の落ち込みとの関係、確認したい血液検査、回復までの考え方について解説します。
- アナボリックステロイドと性欲の関係
- 性欲低下の中心となるHPT軸の抑制
- 使用後に起こる低テストステロンの症状
- なぜ使用中は性欲が高く、中止後に急落するのか
- エストロゲンのバランスも関係する
- プロラクチンが影響することもある
- 精巣萎縮と性欲低下の関係
- 性欲低下とEDは同じもの?
- 気分の落ち込みが性欲をさらに下げる
- 性欲はどのくらいで戻る?
- 長期間戻らないケースもある
- 確認したい血液検査
- 精子数と性欲は一致しない
- PCTをすれば必ず性欲は戻る?
- 自己判断でテストステロンを再開する問題
- ED治療薬を使えば解決する?
- 性欲回復のために見直したい生活習慣
- 相談を検討した方がよいケース
- 個人輸入でPCT関連薬を準備する場合の注意点
- 実際によく聞かれるケース
- まとめ
アナボリックステロイドと性欲の関係
アナボリックステロイドは、男性ホルモンであるテストステロンに似た作用を持つ医薬品です。
筋肉の成長に関係するアナボリック作用と、性欲、体毛、声などに影響するアンドロジェニック作用があります。
使用中は体内のアンドロゲン作用が強くなるため、性欲が高まる人もいます。
しかし、外部から高い量のアンドロゲンが入ると、脳は「体内に十分な男性ホルモンがある」と判断します。
すると、視床下部や下垂体から精巣へ送られる指令が弱まり、自己テストステロンの産生が抑制されます。
NIDA(アメリカ国立薬物乱用研究所)では、アナボリックステロイドはテストステロンの合成物であり、男性では精巣萎縮、精子数の低下、不妊などを起こす可能性があると報告されています。
使用中に性欲が保たれていても、自分の精巣が正常にテストステロンを作れているとは限りません。
性欲低下の中心となるHPT軸の抑制
男性のテストステロン産生は、視床下部・下垂体・精巣からなるHPT軸によって調整されています。
| 部位 | 主な役割 |
|---|---|
| 視床下部 | GnRHを分泌して下垂体へ指令を送る |
| 下垂体 | LH・FSHを分泌する |
| 精巣 | LHの刺激でテストステロンを作る |
外部からアナボリックステロイドを使用すると、ネガティブフィードバックによってGnRH、LH、FSHの分泌が低下します。
その結果、精巣内のテストステロン産生や精子形成が抑えられます。
使用を中止すると、体内に入っていたアンドロゲンは減りますが、HPT軸の働きはまだ抑制されたままの場合があります。
この期間は、外部からのテストステロン作用も、自分で作るテストステロンも少ない状態になりやすくなります。
ステロイド中止後は、一時的に男性ホルモンが大きく不足する空白期間が生じ、性欲低下やEDが起こることがあります。
使用後に起こる低テストステロンの症状
アナボリックステロイド使用後にテストステロンが低下すると、性欲だけでなく、心身にさまざまな変化が現れることがあります。
- 性欲がなくなる
- 朝立ちが減る
- 勃起しにくくなる
- 勃起を維持できない
- 射精時の満足感が低下する
- 疲労感やだるさが出る
- 集中力が落ちる
- 筋力やトレーニング意欲が低下する
- 気分が落ち込む
- イライラや不安が強くなる
- 睡眠の質が低下する
アナボリックステロイド使用中止後の低ゴナドトロピン性性腺機能低下症では、性欲低下、ED、疲労、気分変化などが起こることが報告されています。
性欲低下だけでなく、疲労感や気分の落ち込みが同時に出ている場合は、ホルモン低下が関係している可能性があります。
なぜ使用中は性欲が高く、中止後に急落するのか
アナボリックステロイド使用中は、体内のアンドロゲン作用が通常より強い状態になることがあります。
そのため、性欲、活力、自己肯定感などが高まったように感じる人もいます。
しかし、使用中に高いアンドロゲン環境へ慣れると、中止後の正常値や低値を大きな落差として感じやすくなります。
さらに、使用をやめた直後は自己テストステロンの産生が回復していないため、性欲が急激に低下することがあります。
男性のAAS使用者を調べた研究では、高用量のテストステロン使用中は勃起機能が保たれる傾向がある一方、中止後は性欲低下やEDが新たに現れやすく、使用頻度や期間が長い人ほど症状が多いことが報告されています。
使用中の性欲が高かった人ほど、中止後のホルモン環境との差を強く感じる場合があります。
エストロゲンのバランスも関係する
男性の性機能にはテストステロンだけでなく、適度なエストロゲンも必要です。
一部のアナボリックステロイドは、体内でアロマターゼという酵素によってエストラジオールへ変換されます。
使用中にエストロゲンが高くなりすぎると、女性化乳房、むくみ、気分変化などが起こる可能性があります。
反対に、アロマターゼ阻害薬などでエストロゲンを下げすぎると、性欲低下、ED、関節の違和感、気分の落ち込みなどにつながる場合があります。
性欲低下の原因を「テストステロン不足だけ」と決めつけず、エストラジオールとのバランスも確認することが重要です。
プロラクチンが影響することもある
プロラクチンは、乳腺や生殖機能に関係するホルモンです。
プロラクチンが高くなると、性欲低下、ED、射精障害などが起こることがあります。
ただし、アナボリックステロイド使用後に性欲が落ちたからといって、必ずプロラクチンが高いとは限りません。
睡眠不足、ストレス、一部の薬剤、下垂体の病気などでも変化します。
体感だけでプロラクチン対策薬を追加するのではなく、血液検査で確認してから考える必要があります。
精巣萎縮と性欲低下の関係
外部からアナボリックステロイドを使用すると、LHとFSHが低下し、精巣への刺激が弱くなります。
その結果、精巣が小さくなったように感じることがあります。
精巣萎縮は、精巣内テストステロンの低下や精子形成の抑制を示す変化のひとつです。
NHS(英国国民保健サービス)では、アナボリックステロイドの乱用によって、精子数の減少、不妊、精巣萎縮、EDなどが起こる可能性があると報告されています。
精巣の大きさが戻っても、ホルモン値や精子形成が同時に完全回復しているとは限りません。
性欲低下とEDは同じもの?
性欲低下とEDは別の問題です。
| 状態 | 主な特徴 |
|---|---|
| 性欲低下 | 性的な興味や欲求そのものが弱い |
| ED | 性的欲求はあっても、十分に勃起できない・維持できない |
| 両方がある | 性的欲求が弱く、勃起反応も不十分 |
低テストステロンでは、性欲と勃起機能の両方が低下することがあります。
一方、血管、神経、心理的な不安などが中心の場合は、性欲があっても勃起だけが難しくなることがあります。
ED治療薬は陰茎への血流を助ける薬であり、低下した性欲そのものを直接高める薬ではありません。
気分の落ち込みが性欲をさらに下げる
ステロイド中止後は、ホルモン低下に加えて、筋力や見た目の変化、トレーニング意欲の低下などが重なることがあります。
その結果、不安、抑うつ、無気力などが起こり、性的な興味も失われやすくなります。
NHS(英国国民保健サービス)では、アナボリックステロイドを急に中止した場合の離脱症状として、抑うつ、無気力、不安、集中困難、不眠、性欲低下などが報告されています。
性欲低下に強い抑うつや絶望感が伴う場合は、ホルモン回復だけを待つのではなく、早めの相談が必要です。
性欲はどのくらいで戻る?
回復期間には大きな個人差があります。
使用した薬剤、使用期間、用量、複数薬剤の併用歴、年齢、以前の使用歴、もともとのホルモン状態などが影響します。
2023年のレビューでは、アナボリックステロイド使用後のテストステロン回復は数か月単位で進むことが多い一方、性欲の回復には数か月かかる場合があり、精子形成や精巣サイズの回復にはさらに長期間を要する可能性が報告されています。
また、AAS中止後もテストステロンと性腺刺激ホルモンの低値が数週間から数か月続くことが報告されています。
数日で性欲が戻らなくても直ちに異常とは限りませんが、長期間改善しない場合は検査が必要です。
長期間戻らないケースもある
多くの人では時間とともにHPT軸が回復しますが、一部では低テストステロン症状が長く続くことがあります。
長期間または繰り返しAASを使用した人では、中止後の性腺機能低下が長引く可能性が報告されています。
次のような場合は、回復が遅れる可能性があります。
- 長期間使用していた
- 高用量を使用していた
- 複数のステロイドを併用していた
- 過去に何度もサイクルを繰り返している
- もともとテストステロンが低かった
- 肥満や糖尿病がある
- 睡眠不足や強いストレスが続いている
- 年齢が高い
「使用をやめれば必ず短期間で元通りになる」とは限りません。
確認したい血液検査
性欲低下が続く場合は、体感だけで判断せず、ホルモン状態を確認することが重要です。
| 検査項目 | 確認する目的 |
|---|---|
| 総テストステロン | 血中テストステロンの基本的な状態を見る |
| 遊離テストステロン | 身体で利用されやすいテストステロンを確認する |
| LH | 下垂体から精巣へのテストステロン産生指令を見る |
| FSH | 精子形成に関係する下垂体の指令を見る |
| エストラジオール | エストロゲンの過不足を確認する |
| プロラクチン | 性欲低下やEDに関係する異常がないかを見る |
| SHBG | 遊離テストステロンの評価に役立つ |
| 甲状腺機能 | 疲労や性欲低下の別の原因を確認する |
総テストステロンだけでなく、LH・FSHを一緒に見ることで、精巣と脳のどちらに抑制が残っているかを判断しやすくなります。
テストステロンは時間帯によって変動するため、一般的には朝の測定が重視されます。
精子数と性欲は一致しない
性欲が戻っても、精子形成が十分に回復していない場合があります。
反対に、性欲低下があっても精子が完全にゼロとは限りません。
妊娠を希望している場合は、ホルモン検査に加えて精液検査が必要になることがあります。
性欲や精巣の見た目だけでは、生殖機能の回復を正確に判断できません。
PCTをすれば必ず性欲は戻る?
AAS使用後には、HPT軸の回復を目的としてPCTが話題になることがあります。
クロミッド、ノルバデックス、HCGなどの薬剤名が挙げられますが、それぞれ作用する場所や目的が異なります。
また、AAS使用後の性腺機能低下に対する治療は、研究が限られており、すべての人に共通する標準的なPCT方法が確立されているわけではありません。
アナボリックステロイド誘発性性腺機能低下症の診断・治療に関するレビューでも、質の高い研究が不足しており、管理には個別の評価が必要だと報告されています。
PCTを行えば必ず短期間で性欲や精子形成が回復するとは限りません。
ホルモン値を確認せずに複数の薬を追加すると、エストロゲンやプロラクチンのバランスを崩し、かえって症状を複雑にする可能性があります。
自己判断でテストステロンを再開する問題
性欲低下がつらいと、再びテストステロンやアナボリックステロイドを使いたくなることがあります。
再開すると一時的に性欲が戻ったように感じる可能性があります。
しかし、外部からアンドロゲンを追加すれば、HPT軸の抑制は続きます。
一時的な症状改善と、自己テストステロン産生の回復は同じではありません。
妊娠を希望している場合は、外部テストステロンによって精子形成がさらに抑制される可能性にも注意が必要です。
ED治療薬を使えば解決する?
シルデナフィルやタダラフィルなどのED治療薬は、陰茎の血管を広げ、勃起を補助します。
性欲はあるものの勃起が不十分な場合には、効果を期待できる可能性があります。
一方、テストステロン低下によって性的欲求そのものが弱い場合は、ED治療薬を飲んでも十分な性的刺激が起こらず、効果を感じにくい場合があります。
ED治療薬は血流を補助する薬であり、ホルモン低下の根本原因を回復させる薬ではありません。
性欲回復のために見直したい生活習慣
生活習慣だけで強いホルモン抑制を治せるわけではありませんが、回復を妨げる要因を減らすことは重要です。
睡眠時間を確保する
睡眠不足が続くと、疲労、気分、性欲へ影響します。
トレーニングや仕事を優先して睡眠を削らず、一定の起床時間を保ちましょう。
極端な減量を避ける
体脂肪を落とそうとして摂取カロリーや脂質を極端に減らすと、性欲低下や疲労を悪化させる可能性があります。
ステロイド中止後に体型を維持しようとして過度な食事制限を行うと、ホルモン回復を妨げる場合があります。
過剰なトレーニングを控える
使用中と同じ重量や頻度を維持しようとすると、回復不足やけがにつながることがあります。
疲労感が強い時期は、トレーニング量を調整することも必要です。
飲酒を控える
過度な飲酒は睡眠、勃起機能、気分、肝機能などへ影響します。
性欲低下をお酒で紛らわせると、EDや気分の問題を悪化させる可能性があります。
相談を検討した方がよいケース
次に当てはまる場合は、自然回復だけを待たず、ホルモン検査や相談を検討しましょう。
- 性欲低下が数か月続いている
- 朝立ちが長期間ない
- EDが続き性行為が難しい
- 精巣の萎縮が強い
- 強い疲労感や筋力低下がある
- 妊娠を希望している
- 強い不安や抑うつがある
- 仕事や日常生活に支障が出ている
- ホルモン薬を追加しても改善しない
強い抑うつ、自傷したい気持ち、希死念慮がある場合は、ホルモン検査を待たず、早急な支援が必要です。
個人輸入でPCT関連薬を準備する場合の注意点
アナボリックステロイド使用後の対策として、クロミッド、ノルバデックス、HCGなどを個人輸入で準備する人もいます。
個人輸入は、自宅から注文でき、海外製品やジェネリックを比較しやすい点を利便性と感じる人もいます。
一方、それぞれの薬には副作用や適さないケースがあります。
また、含有量や製造元、流通経路が不明確な製品では、想定した効果が得られない可能性もあります。
個人輸入を利用する場合も、症状だけで薬を選ばず、総テストステロン、LH、FSH、エストラジオール、プロラクチンなどを確認することが重要です。
複数の薬剤を自己判断で重ねると、血栓症、視覚異常、気分変化、エストロゲンバランスの乱れなどにつながる可能性があります。
実際によく聞かれるケース
31歳 男性
「サイクル中は性欲が強かったのですが、終了後に朝立ちがなくなり、疲労感も増えました。検査を受けるとテストステロンだけでなくLHも低下していました。」
38歳 男性
「ED治療薬を使っても性欲そのものがなく、効果を感じにくい状態でした。血流だけでなくホルモンの問題を確認する必要があると分かりました。」
44歳 男性
「すぐに元へ戻ると思っていましたが、性欲の回復には数か月かかりました。使用中だけでなく、中止後の体調まで考える必要があると感じました。」
※上記は一般的なケースをもとにしたイメージであり、症状や回復期間には個人差があります。
まとめ
アナボリックステロイド使用後に性欲が落ちる主な理由は、外部からのアンドロゲンによってHPT軸が抑制され、自己テストステロンの産生が低下するためです。
使用中に性欲が高くても、自分の精巣が正常にテストステロンを作れているとは限りません。
使用を中止すると、外部からのアンドロゲン作用がなくなる一方、自己テストステロンの回復には時間がかかるため、性欲低下、ED、疲労感、気分の落ち込みなどが現れることがあります。
回復期間には個人差があり、数週間から数か月で改善するケースがある一方、長期間症状が続く人もいます。
性欲低下が続く場合は、総テストステロンだけでなく、LH、FSH、エストラジオール、プロラクチン、SHBGなどを確認することが重要です。
ED治療薬は勃起時の血流を補助しますが、低下した性欲やHPT軸の抑制そのものを回復させる薬ではありません。
PCT関連薬を使えば必ず回復するとは限らないため、体感だけで複数の薬を追加せず、ホルモン状態と症状を総合的に判断しましょう。
