多汗症の部位ってどんなところがある?その原因についても解説
監修:医師・薬剤師監修
「手のひらだけ汗が多い」「脇汗で服が濡れる」「顔や頭から汗が流れる」など、汗が気になる場所は人によって異なります。
多汗症は全身に汗をかく場合だけでなく、手、足、脇、顔、頭など、限られた部位に大量の汗が出ることもあります。
暑い日や運動中に汗が増えるのは、身体を冷やすための正常な反応です。しかし、涼しい場所でも汗が止まらない、スマートフォンや書類が濡れる、服装や仕事が制限される場合は、多汗症が関係している可能性があります。
多汗症では、汗が出る部位によって困りごとや適した治療方法が異なります。
この記事では、多汗症が起こりやすい部位、それぞれの症状と原因、治療方法について分かりやすく解説します。
多汗症とはどのような状態?
多汗症とは、体温調節に必要な量を超えて汗が出て、日常生活に支障をきたす状態です。
汗をかく範囲によって、大きく「局所性多汗症」と「全身性多汗症」に分けられます。
| 種類 | 汗が出る範囲 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 局所性多汗症 | 手、足、脇、頭、顔など | 限られた部位へ左右対称に汗が出やすい |
| 全身性多汗症 | 身体全体 | 病気、薬、更年期、発熱などが関係することがある |
明らかな病気や薬の影響がなく、特定の部位に過剰な汗が出る状態を「原発性局所多汗症」と呼びます。
一方、甲状腺疾患、低血糖、更年期、感染症、薬の副作用などが原因で起こるものは「続発性多汗症」と呼ばれます。
多汗症を治療するときは、最初に原発性か続発性かを見分けることが重要です。
多汗症が起こりやすい主な部位
原発性局所多汗症で特に多いのは、次の部位です。
- 手のひら
- 足の裏
- 脇の下
- 頭部
- 顔面
一つの部位だけに汗が出る人もいれば、手と足、脇と顔など、複数の部位に多汗症が現れる人もいます。
日本皮膚科学会の診療ガイドラインでも、原発性局所多汗症は主に腋窩、手掌、足底、頭部・顔面に分けて診療されています。
手のひらに起こる手掌多汗症
手のひらから大量の汗が出る状態を、手掌多汗症と呼びます。
軽い場合は手が湿る程度ですが、症状が強い人では汗の粒が見えたり、指先から汗が滴ったりすることがあります。
手掌多汗症では、次のような悩みが起こります。
- スマートフォンの画面が濡れる
- 紙や書類が湿る
- ペンや工具が滑る
- パソコンのマウスを使いにくい
- 握手や手をつなぐことを避ける
- 楽器やゲーム機の操作に支障が出る
手掌多汗症は幼少期や思春期頃から始まることが多く、緊張や不安によって汗が増える傾向があります。日本皮膚科学会でも、手のひらや足の裏では精神的緊張によって多量の発汗がみられるとされています。
手汗を気にすることでさらに緊張し、汗が増える悪循環に陥ることもあります。
足の裏に起こる足底多汗症
足の裏から必要以上に汗が出る状態を、足底多汗症と呼びます。
靴下が濡れる、靴の中が蒸れる、床へ足跡がつくといった症状がみられます。
足底多汗症では、次のような問題が起こりやすくなります。
- 靴下を何度も交換する必要がある
- 靴の中が滑る
- 足のにおいが強くなる
- 皮膚がふやける
- 靴ずれや皮膚炎が起こる
- 水虫と区別しにくい症状が出る
汗そのものには強いにおいがなくても、靴の中が高温多湿になると、細菌が増えてにおいが出やすくなります。
通気性の悪い靴や、同じ靴を毎日履く習慣も蒸れを強くします。
脇の下に起こる腋窩多汗症
脇の下から大量に汗が出る状態を、腋窩多汗症と呼びます。
服に大きな汗ジミができる、ジャケットまで濡れる、汗が気になって腕を上げられないといった悩みにつながります。
腋窩多汗症は、暑さだけでなく精神的な緊張でも悪化します。
日本皮膚科学会では、原発性腋窩多汗症は精神的緊張や温熱刺激によって左右対称に脇汗が増え、下着やシャツに染みができるほどになると報告されています。
脇汗が多いことと、ワキガは同じではありません。
多汗症では主に汗の量が問題になります。一方、ワキガはアポクリン汗腺から出る分泌物が皮膚の細菌によって分解され、独特のにおいが発生する状態です。
汗の量を減らしたい場合は、香りで隠すデオドラント剤ではなく、制汗成分や治療薬を選ぶ必要があります。
顔に起こる顔面多汗症
額、こめかみ、鼻の下、頬などから大量に汗が出る状態を、顔面多汗症と呼びます。
涼しい室内でも顔汗が流れる、メイクが崩れる、人と話すと汗が噴き出すといった症状があります。
顔は人目につきやすいため、汗の量そのものだけでなく、精神的な負担が大きくなりやすい部位です。
緊張して顔汗が出ると、「相手に見られている」と不安になり、さらに交感神経が活発になって汗が増えることがあります。
辛い食べ物や熱い料理を食べたときに顔汗が増える味覚性発汗もあります。
頭に起こる頭部多汗症
頭皮や生え際から大量に汗が出る状態を、頭部多汗症と呼びます。
顔面多汗症と合わせて「頭部顔面多汗症」として扱われることがあります。
頭部多汗症では、髪が洗った直後のように濡れる、額へ汗が流れる、帽子やヘルメットの中がびっしょりになるといった症状が現れます。
髪の毛で熱や湿気がこもりやすく、頭皮の汗が蒸発しにくいため、実際の量以上に汗が多く感じられる場合もあります。
緊張、暑さ、辛い食べ物などが引き金になりますが、更年期のホットフラッシュや甲状腺疾患が関係することもあります。
背中・胸・お腹に汗をかく場合
背中、胸、お腹などの体幹部に大量の汗をかく人もいます。
気温や運動に伴う汗であれば正常な反応ですが、安静時や涼しい室内でも汗が止まらない場合は、全身性多汗症の一部として確認する必要があります。
更年期のホットフラッシュでは、顔や首だけでなく、胸や背中から汗が噴き出すことがあります。
寝ている間にパジャマやシーツが濡れるほど汗をかく場合は、室温、寝具、飲酒、感染症、薬の影響なども確認しましょう。
全身から汗が出る全身性多汗症
手や脇などの限られた場所ではなく、身体全体から大量の汗が出る状態を全身性多汗症と呼びます。
全身性多汗症では、別の病気や薬が原因となる続発性多汗症の可能性を考える必要があります。
多汗症は全身または手のひら、足の裏、脇、顔などの一部に起こり、基礎疾患がある場合は続発性多汗症に分類されます。
全身性多汗症で考えられる原因には、次のようなものがあります。
- 甲状腺機能亢進症
- 低血糖
- 更年期
- 感染症や発熱
- 糖尿病
- 一部の神経疾患
- 薬の副作用
- アルコールの影響
大人になってから急に全身の汗が増えた場合は、原発性多汗症と自己判断しないことが重要です。
原発性多汗症が起こる原因
原発性局所多汗症では、汗を出す交感神経の反応が必要以上に強くなっていると考えられています。
通常、体温が上がると自律神経が汗腺へ指令を送り、汗を出します。
原発性多汗症では、体温がそれほど高くないときや、軽い緊張だけでも汗腺が強く刺激されます。
特に手、足、脇、顔などは、エクリン汗腺が多い部位です。
原発性多汗症は基礎疾患がなくても起こり、神経からの過剰な信号によってエクリン汗腺が活発になると考えられています。
緊張やストレスで汗が増える理由
人前で話す、面接を受ける、握手をするなどの場面では、交感神経が活発になります。
心拍数が上がると同時に、手、足、脇、顔などから汗が出やすくなります。
多汗症がある人では、わずかな緊張でも大量の汗が出ることがあります。
「また汗をかくかもしれない」と心配することで、さらに交感神経が刺激され、汗が増える場合もあります。
呼吸法や緊張対策は補助になりますが、重度の多汗症を気持ちだけで完全に止めることは困難です。
続発性多汗症を疑う症状
次のような特徴がある場合は、病気や薬による続発性多汗症を考えます。
- 大人になってから急に汗が増えた
- 身体の片側だけ汗をかく
- 全身に汗をかく
- 睡眠中にも大量の汗をかく
- 発熱や長引く咳がある
- 動悸や手の震えがある
- 食事量が変わらないのに体重が減る
- 薬を使い始めてから汗が増えた
- 冷や汗とふらつきが起こる
特に、突然発汗量が増えた場合や原因不明の寝汗がある場合は、医療機関への相談が勧められます。
部位ごとの治療方法
多汗症の治療は、汗が出る部位によって異なります。
| 部位 | 主な治療方法 |
|---|---|
| 手のひら | 抗コリン外用薬、塩化アルミニウム、イオントフォレーシス、内服薬、ボツリヌス毒素注射 |
| 足の裏 | 塩化アルミニウム、イオントフォレーシス、内服薬、ボツリヌス毒素注射 |
| 脇 | 抗コリン外用薬、塩化アルミニウム、ボツリヌス毒素注射 |
| 頭・顔 | 塩化アルミニウム、内服薬、ボツリヌス毒素注射 |
| 全身 | 原因疾患の治療、内服薬、生活環境の調整 |
日本皮膚科学会では、腋窩、手掌、足底、頭部顔面の各部位に応じた治療アルゴリズムが示されています。
塩化アルミニウムを含む制汗剤
塩化アルミニウムは、汗の通り道へ作用し、汗が皮膚表面へ出にくくなるように働く制汗成分です。
手、足、脇、頭部顔面などへ使われることがあります。
就寝前など、皮膚が乾いた状態で塗るのが一般的です。
ただし、赤み、かゆみ、ヒリヒリ感、皮膚炎が起こる場合があります。
顔や頭皮は刺激を受けやすいため、脇用の商品を自己判断で使用しないようにしましょう。
抗コリン外用薬
抗コリン外用薬は、汗腺へ発汗の指令を伝えるアセチルコリンの働きを抑える薬です。
日本では、原発性腋窩多汗症に使うソフピロニウム臭化物ゲルやグリコピロニウム製剤、原発性手掌多汗症に使うオキシブチニン塩酸塩ローションなどが処方されています。
使用後は手をよく洗い、目や口へ薬が入らないようにします。
目のかすみ、口の渇き、排尿しにくいなどの症状が出た場合は、医師や薬剤師へ相談してください。
イオントフォレーシス
イオントフォレーシスは、浅い容器の水に手や足を浸し、弱い電流を流して発汗を抑える治療です。
主に手掌多汗症や足底多汗症に使われます。
最初は週に数回治療し、汗が減ってきたら治療間隔を空けます。
一度で完全に治る治療ではなく、効果を維持するために継続が必要です。
内服の抗コリン薬
複数の部位に汗をかく場合や、外用薬で十分に改善しない場合には、抗コリン薬の内服が検討されることがあります。
身体の内側から発汗の指令を抑えられますが、口の渇き、便秘、目のかすみ、動悸、排尿しにくいなどの副作用があります。
汗を抑えすぎると身体へ熱がこもり、暑い環境や運動中に熱中症を起こしやすくなる可能性があります。
内服薬を使用するときは、暑い場所での長時間作業や激しい運動に注意してください。
ボツリヌス毒素注射
A型ボツリヌス毒素を汗が多い部位へ注射し、発汗の指令を一時的に抑える治療方法です。
脇、手、足、頭部顔面などで検討されることがあります。
日本皮膚科学会では、腋窩、手掌、足底、頭部顔面の各多汗症に対して、ボツリヌス毒素注射を治療選択肢として挙げています。
効果は永久ではなく、一定期間が過ぎると再治療が必要です。
手のひらでは注射時の痛みや一時的な握力低下、顔では表情筋への影響などに注意します。
自宅でできる部位別の対策
手汗
机に薄いタオルを置き、紙へ文字を書くときは手の下へ吸水性のある紙を敷きます。アルコール消毒を何度も繰り返すと手荒れにつながるため注意しましょう。
足汗
吸湿性のよい靴下を使用し、濡れたら交換します。同じ靴を毎日履かず、十分に乾燥させましょう。
脇汗
吸汗速乾性のあるインナーや脇汗パッドを使います。制汗剤は汗をかく前の清潔で乾いた皮膚へ塗りましょう。
顔・頭汗
汗はこすらず、清潔なタオルで押さえるように拭き取ります。携帯扇風機や冷たいタオルも役立ちます。
全身の汗
室温と湿度を調整し、通気性のよい服を選びます。辛い食べ物、熱い飲み物、飲酒などで汗が増える人は、摂取量を見直しましょう。
多汗症治療薬を個人輸入する場合の注意点
国内では入手しにくい制汗剤や多汗症治療薬を購入したいという理由から、個人輸入代行サイトを利用する人もいます。
個人輸入では、海外の高濃度制汗剤や内服薬などを比較し、自宅から注文できる点がメリットです。
一方で、塗る部位に適していない高濃度製品を使用すると、強い赤み、かぶれ、水ぶくれなどが起こる可能性があります。
抗コリン薬は、緑内障、排尿障害、前立腺肥大、重い心疾患などがある人には適さない場合があります。
個人輸入を利用するときは、商品名だけで選ばず、有効成分、濃度、使用部位、用法・用量、禁忌を必ず確認してください。
手用の製品を顔へ使う、複数の抗コリン薬を重ねるといった自己流の使い方は避けましょう。
医療機関へ相談した方がよい目安
多汗症は皮膚科や多汗症外来で相談できます。
次のような場合は医療機関への相談を検討してください。
- 汗のために仕事や学校へ支障が出ている
- スマートフォンや書類が濡れる
- 服を何度も着替える必要がある
- 人との接触や外出を避けている
- 市販の制汗剤で改善しない
- 大人になってから急に汗が増えた
- 全身に大量の汗をかく
- 夜中にも寝具が濡れるほど汗をかく
- 動悸、手の震え、体重減少を伴う
- 薬を飲み始めてから汗が増えた
汗によって精神的な苦痛や社会生活の制限が生じている場合も、受診を考える目安です。
まとめ|多汗症は部位と原因に合わせて治療しよう
多汗症が起こりやすい部位には、手のひら、足の裏、脇、頭、顔があります。
限られた部位へ左右対称に汗が出る場合は、原発性局所多汗症が考えられます。
一方、全身の汗が急に増えた場合や、寝汗、動悸、体重減少などを伴う場合は、甲状腺疾患、更年期、低血糖、感染症、薬の副作用なども確認する必要があります。
治療方法には、塩化アルミニウム、抗コリン外用薬、イオントフォレーシス、内服薬、ボツリヌス毒素注射などがあります。
汗を単なる体質として我慢せず、「どの部位に」「どのような場面で」「どの程度の汗が出るか」を記録し、原因と部位に合った治療を選ぶことが大切です。

