アナボリックステロイドでニキビや薄毛が悪化する理由|男性ホルモン作用との関係
監修:医師・薬剤師監修
筋肉量やパフォーマンスを高める目的でアナボリックステロイドを使用すると、「急に背中や顔のニキビが増えた」「生え際や頭頂部の薄毛が進んだ」と感じることがあります。
アナボリックステロイドには、筋肉を増やすアナボリック作用だけでなく、男性ホルモンとして働くアンドロゲン作用があります。このアンドロゲン作用によって皮脂腺が刺激されると、皮脂の分泌が増えてニキビが悪化しやすくなります。また、AGA(男性型脱毛症)の体質がある人では、毛根へのアンドロゲン刺激が強まり、薄毛の進行が早くなる可能性があります。FDA(アメリカ食品医薬品局)も、アナボリックステロイドやステロイド様物質に関連する副作用として、重度のニキビや脱毛を挙げています。
ただし、使用した人全員に同じ症状が現れるわけではありません。ニキビや薄毛の出やすさには、使用している物質、体質、遺伝的なAGAのなりやすさ、皮脂量などが関係します。
この記事では、アナボリックステロイドでニキビや薄毛が悪化する理由、症状が出たときの注意点、自己判断で薬を追加する危険性について解説します。
アナボリックステロイドとは?
アナボリック・アンドロゲニック・ステロイド(AAS)は、テストステロンと似た作用を持つ物質です。
「アナボリック」はたんぱく質合成や筋肉量の増加に関係する作用、「アンドロゲニック」は男性的な身体変化を起こす作用を意味します。
NIDA(アメリカ国立薬物乱用研究所)では、アナボリックステロイドを筋肉量や外見、運動パフォーマンスを高める目的で乱用されることがある薬物として紹介しています。
医療では一部のアナボリックステロイドが特定の疾患に使用される場合がありますが、筋肉増強目的で医療上必要な量を超えて使用することとは分けて考える必要があります。
「ステロイド」という名前でも、湿疹などに使う副腎皮質ステロイドとは作用や副作用が異なります。
なぜニキビが増えるの?
男性ホルモンが皮脂腺を刺激する
皮膚には皮脂を作る皮脂腺があります。
皮脂腺にはテストステロンやDHT(ジヒドロテストステロン)が作用するアンドロゲン受容体があり、アンドロゲンによる刺激が強くなると、皮脂腺の活動が活発になって皮脂量が増えます。NCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)の医学資料でも、アンドロゲンが皮脂腺の増殖や分泌機能を刺激し、皮脂分泌やニキビ形成へ関与するとされています。
アナボリックステロイドによってアンドロゲン作用が強くなると、皮脂が多くなり、毛穴が詰まりやすい環境が作られます。
皮脂だけでニキビになるわけではない
ニキビは、単に皮脂が増えるだけで発生するわけではありません。
主に次の要因が重なって起こります。
- 皮脂分泌の増加
- 毛穴の出口が詰まる
- 毛穴内部でのアクネ菌の増殖
- 炎症反応
アナボリックステロイドによって皮脂分泌が増えると、このニキビが形成される環境を助長します。
NHS(英国国民保健サービス)も、アナボリックステロイドの乱用によって重度のニキビが起こる可能性を示しています。
背中や肩にニキビが増えやすいのはなぜ?
アナボリックステロイド使用時のニキビでは、顔だけでなく、胸、背中、肩などに炎症性のニキビが増えることがあります。
これらは皮脂腺が多い場所であり、さらに運動中の発汗、トレーニングウェアによる蒸れや摩擦も加わります。
汗をかいた状態で長時間ウェアを着たままにしたり、同じ衣類を繰り返し使用したりすると、毛穴への刺激が増えます。
ただし、汗そのものがニキビの直接原因というわけではありません。皮脂、毛穴の詰まり、細菌、摩擦などの複数の要因が重なることで悪化しやすくなります。
なぜ薄毛が悪化するの?
AGAは男性ホルモンに反応する毛根で起こる
AGAでは、テストステロンが5α還元酵素によってDHTへ変換されます。
DHTが毛乳頭などにあるアンドロゲン受容体へ作用すると、AGAになりやすい毛根では髪の成長期が短くなります。
その結果、太く長く成長していた毛が徐々に細く短くなります。この変化を毛包の「ミニチュア化」と呼びます。NCBI(アメリカ国立生物工学情報センター)のAGA資料でも、DHTとアンドロゲン受容体による作用が毛包の小型化と成長期の短縮へ関係するとされています。
アナボリックステロイドでアンドロゲン刺激が強くなる
アナボリックステロイドの使用によって体内のアンドロゲン作用が強くなると、AGAの遺伝的素因を持つ人では、毛根への男性ホルモン刺激も強くなる可能性があります。
その結果、もともと将来的にAGAが進行する体質だった人で、薄毛が目立つ時期が早くなったり、進行が速く感じられたりすることがあります。
FDA(アメリカ食品医薬品局)やNHS(英国国民保健サービス)も、アナボリックステロイドに関連する副作用として脱毛や男性型脱毛を挙げています。
ステロイドを使えば全員が薄毛になるわけではなく、AGAへの遺伝的ななりやすさが大きく関係します。
生え際と頭頂部から薄くなる場合はAGAを疑う
アナボリックステロイド使用後に髪が減った場合でも、すべてが同じ脱毛症とは限りません。
AGAでは、一般的に次のような変化が起こります。
- 左右の生え際が後退する
- 額が広くなったように感じる
- 頭頂部の地肌が見えやすくなる
- 髪が以前より細くなる
- 短く細い毛が増える
AGAでは側頭部や後頭部よりも、前頭部や頭頂部の毛包がアンドロゲンの影響を受けやすいことが知られています。
一方、頭全体から急激に髪が抜ける場合や、円形に抜ける場合は、休止期脱毛や円形脱毛症など別の原因も考える必要があります。
ステロイドをやめればニキビや薄毛は元に戻る?
ニキビは改善する可能性がある
原因となるアンドロゲン刺激が弱くなれば、皮脂量が減少し、ニキビが改善する可能性があります。
ただし、重度の炎症を長期間放置すると、赤みや色素沈着だけでなく、へこんだニキビ跡が残ることがあります。
大きく痛むニキビ、膿を持つニキビ、顔や背中に広範囲に広がる場合は、早めに皮膚科へ相談してください。
AGAによる薄毛は完全に戻らない場合がある
AGAによる毛包のミニチュア化が進行している場合、アナボリックステロイドを中止しただけでは、元の状態まで髪が戻らないことがあります。
使用をやめたあとも薄毛が続く場合は、皮膚科やAGAを診療する医療機関で原因を確認することが重要です。
ステロイドを中止すれば必ず髪が元通りになるとは限らないため、薄毛が気になった時点で早めに相談しましょう。
フィナステリドを一緒に飲めば薄毛を防げる?
フィナステリドは、5α還元酵素を阻害し、テストステロンからDHTが作られるのを抑えるAGA治療薬です。
しかし、アナボリックステロイド使用中にフィナステリドを追加すれば、すべての脱毛を防げるとは限りません。
使用している物質によっては、DHTへの変換を介さずにアンドロゲン受容体へ直接作用するものもあります。そのため、「ステロイドを使いながらAGA薬を飲めば安全」という考え方は適切ではありません。
また、複数のホルモン関連薬を自己判断で組み合わせれば、副作用の把握も難しくなります。
ニキビ対策で自己判断の薬を追加しない
市販のニキビ薬で改善しない場合に、抗菌薬やイソトレチノインなどを自己判断で入手して使用するのは避けてください。
特にイソトレチノインには、妊娠への重大な影響をはじめ複数の注意点があり、医療機関での管理が必要です。
まずは原因となるホルモン環境を含めて医師へ伝え、適切な治療を受けることが重要です。
ニキビ・薄毛以外の副作用にも注意
アナボリックステロイドの問題は、外見上の副作用だけではありません。
FDA(アメリカ食品医薬品局)は、アナボリックステロイドやステロイド様物質に関連して、次のような重大な健康被害が起こる可能性を警告しています。
- 肝障害
- 腎障害
- 心筋梗塞
- 脳卒中
- 血栓症
- 気分や精神状態の変化
- 性機能障害
- 精巣の萎縮
NIDA(アメリカ国立薬物乱用研究所)も、アナボリックステロイドの乱用が心血管系、肝臓、腎臓、ホルモン系などへ深刻な影響を与える可能性を示しています。
ニキビや薄毛は目につきやすい副作用ですが、その裏でより重大な身体への影響が起きている可能性があります。
「サイクルを組めば安全」は本当?
アナボリックステロイドの使用では、一定期間使用して休む「サイクリング」や、複数の物質を組み合わせる方法などが語られることがあります。
しかし、NHS(英国国民保健サービス)では、こうした使用方法によって副作用や健康被害を減らせるという根拠はないとしています。
使用量を調節したり、別の薬を組み合わせたりしても、安全性が保証されるわけではありません。
体調に異変がある場合は、自己流で別の薬を追加するのではなく医療機関へ相談してください。
サプリメントだと思っていた製品にも注意
海外の筋肉増強サプリメントやボディビル向け製品の中には、ステロイドやステロイド様物質を含むものが販売されている場合があります。
FDA(アメリカ食品医薬品局)は、ボディビル向け製品の一部に、表示されていないステロイドやステロイド様物質が含まれている可能性があり、重い肝障害などが報告されているとして注意を呼びかけています。
「天然」「合法」「ホルモンサポート」などの表示だけで、安全性を判断してはいけません。
医療機関へ相談した方がよい症状
アナボリックステロイドを使用していて、次の症状がある場合は医療機関へ相談してください。
- 顔や背中に痛みを伴うニキビが急増した
- ニキビが膿んで跡が残り始めた
- 生え際や頭頂部の薄毛が急速に進んだ
- 黄疸や濃い色の尿が出た
- 胸痛や強い動悸がある
- 息苦しさがある
- 気分の落ち込みや攻撃性が強くなった
- 精巣が小さくなったと感じる
- 性欲や勃起機能が大きく変化した
使用している製品名や成分が分かる場合は、医師へ正確に伝えてください。健康被害を診断するために重要な情報になります。
よくある質問
アナボリックステロイドを使うと必ずニキビができますか?
必ずではありません。ただし、アンドロゲンには皮脂腺を刺激する作用があるため、もともと皮脂が多い人やニキビができやすい人では悪化する可能性があります。
ステロイドで薄毛になったらAGAですか?
生え際や頭頂部を中心に徐々に髪が細くなる場合はAGAが考えられますが、急激に全体が抜ける場合は別の脱毛症の可能性があります。
筋肉増強をやめれば抜け毛は止まりますか?
アンドロゲン刺激が弱くなることで進行が落ち着く可能性はありますが、すでにAGAが進んでいる場合は薄毛が継続することがあります。
頭皮の皮脂を毎日強く洗えば薄毛を防げますか?
AGAは頭皮の汚れが原因ではありません。洗髪で余分な皮脂を落とすことはできますが、DHTやアンドロゲン受容体によるAGAの進行そのものを防ぐことはできません。
AGA薬と併用すればアナボリックステロイドを安全に使えますか?
いいえ。AGA薬はアナボリックステロイドによる心血管、肝臓、生殖機能などの健康リスクを防ぐ薬ではありません。
まとめ
アナボリックステロイドでニキビが悪化する大きな理由は、アンドロゲン作用によって皮脂腺が刺激され、皮脂分泌が増えるためです。皮脂が増えることで毛穴が詰まりやすくなり、炎症性のニキビが顔だけでなく背中や肩にも増える可能性があります。
薄毛については、AGA体質の人でアンドロゲン刺激が強くなると、毛包のミニチュア化が進み、生え際や頭頂部の薄毛が早く進行する可能性があります。
ニキビや脱毛はFDA(アメリカ食品医薬品局)やNHS(英国国民保健サービス)もアナボリックステロイドに関連する副作用として挙げています。
しかし、注意すべきなのは皮膚症状だけではありません。肝障害、心筋梗塞、脳卒中、腎障害、性機能障害など、より重大な健康リスクが伴う可能性があります。
ニキビや抜け毛が急に悪化した場合は、別の薬を自己判断で追加して症状だけを抑えようとせず、使用している物質を医師へ伝えて相談してください。

