男性更年期でイライラするのはなぜ?気分の落ち込みとの違いも解説
監修:医師・薬剤師監修
「以前より怒りっぽくなった」「家族の何気ない言葉に腹が立つ」「仕事で小さなミスをされただけでも強く責めてしまう」といった変化は、男性更年期で起こることがあります。
男性更年期は、医学的にはLOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)と呼ばれます。テストステロンの低下に伴い、疲労感、意欲低下、集中力低下、イライラ、不安、不眠、性欲低下、EDなどが現れる状態です。日本内分泌学会でも、男性更年期では身体、精神、性機能にさまざまな症状が現れるとされています。
ただし、イライラや気分の落ち込みがあるからといって、必ず男性更年期とは限りません。うつ病、不安障害、睡眠障害、甲状腺の病気、仕事や家庭のストレスなどでも似た症状が起こります。
男性更年期でイライラする理由
テストステロンの低下
テストステロンは、性欲や筋力だけに関係するホルモンではありません。意欲、集中力、自信、気分の安定にも関係しています。
テストステロンが低下すると、以前なら気にならなかったことに腹が立つ、物事を悪い方向へ考える、仕事へのやる気が出ないといった変化が起こることがあります。
男性更年期は40代以降に起こる可能性がありますが、年齢だけで診断されるわけではありません。症状と血液検査の結果を合わせて判断します。日本泌尿器科学会などがまとめた診療の手引きでも、LOH症候群は自覚症状とテストステロン値を含めて評価する必要があるとされています。
疲労と睡眠不足
男性更年期では、寝つきが悪い、夜中に何度も目が覚める、朝早く起きてしまうといった不眠が起こることがあります。
睡眠不足が続くと、脳が疲れて感情を抑えにくくなります。普段なら受け流せることでも、強く反応しやすくなり、家族や同僚へきつい言葉を使ってしまうことがあります。
例えば、夜中に何度も目が覚め、朝から疲れている状態で仕事へ行くと、集中力が落ちます。自分のミスが増えるだけでなく、他人のミスにも過敏になり、イライラが強くなることがあります。
仕事や家庭でのストレス
40~50代は、職場での責任が増える一方、親の介護、子どもの進学、住宅ローン、夫婦関係など、複数の負担が重なりやすい年代です。
ストレスが強いと、脳や自律神経が緊張した状態になります。そこへテストステロンの低下や睡眠不足が重なると、感情を調整しにくくなります。
男性更年期のイライラは、ホルモンだけで起こるのではなく、疲労、睡眠、ストレスが重なって強くなることが多いです。
男性更年期で起こる主な精神症状
- 些細なことで腹が立つ
- 以前より怒りっぽくなる
- 不安や焦りが強くなる
- やる気が出ない
- 仕事へ集中できない
- 決断に時間がかかる
- 気分が落ち込む
- 自信を失う
- 眠りが浅くなる
- 人と会うのが面倒になる
厚生労働省が実施した更年期症状に関する調査でも、男性の更年期症状として、気分の落ち込み、意欲低下、イライラ、不眠などの精神症状が挙げられています。
イライラと気分の落ち込みの違い
イライラと気分の落ち込みは、同時に現れることもありますが、身体や心に現れる反応は異なります。
| 比較項目 | イライラが強い状態 | 気分の落ち込みが強い状態 |
|---|---|---|
| 主な感情 | 怒り、焦り、不満、緊張 | 悲しさ、無気力、絶望感 |
| 行動 | 大声を出す、責める、物に当たる | 動けない、人と会わない、仕事を休む |
| 考え方 | 周囲や出来事へ不満を感じる | 自分を責め、将来を悲観する |
| 身体の反応 | 動悸、発汗、肩の緊張、眠れない | 強い疲労感、食欲低下、身体が重い |
| 周囲から見た変化 | 怒りっぽくなったと言われる | 元気がなくなったと言われる |
男性では、気分の落ち込みよりも、怒り、攻撃的な態度、飲酒量の増加などが目立つ場合があります。本人は「うつ状態」と自覚せず、家族が先に変化へ気づくこともあります。
男性更年期とうつ病の違い
男性更年期とうつ病には、気分の落ち込み、疲労感、不眠、集中力低下、意欲低下など、共通する症状が多くあります。
そのため、症状だけで完全に見分けるのは困難です。
| 確認する項目 | 男性更年期が疑われる場合 | うつ病が疑われる場合 |
|---|---|---|
| 性欲 | 性欲低下や朝立ちの減少を伴いやすい | 低下することもあるが必須ではない |
| 身体症状 | 筋力低下、発汗、ほてり、EDを伴うことがある | 食欲や体重の変化、強い倦怠感が目立つことがある |
| 考え方 | イライラ、集中力低下、自信喪失が目立つ | 自責感、絶望感、興味や喜びの消失が目立つ |
| 検査 | テストステロン値を確認する | 問診を中心に診断する |
| 主な相談先 | 泌尿器科、男性更年期外来 | 精神科、心療内科 |
趣味を楽しめない、何をしても気分が晴れない、自分には価値がないと感じる状態が続く場合は、うつ病も疑う必要があります。
男性更年期とうつ病は同時に起こることもあります。テストステロン値が低いからといって、すべての精神症状を男性更年期だけで説明できるわけではありません。
男性更年期を確認する検査
男性更年期が疑われる場合は、泌尿器科、男性更年期外来、メンズヘルス外来などで問診と血液検査を行います。
主に確認される項目は次のとおりです。
- テストステロン値
- 性欲や朝立ちの変化
- 疲労感や集中力低下
- イライラや気分の落ち込み
- 睡眠状態
- 筋力や体重の変化
- 服用中の薬
- 糖尿病、高血圧、甲状腺疾患などの有無
テストステロンは1日の中で変動し、一般的に朝のほうが高くなります。そのため、医療機関では午前中に採血することがあります。
テストステロン値だけで診断するのではなく、症状と検査結果を合わせて判断することが重要です。
自宅でできるイライラ対策
睡眠時間を確保する
まずは起床時間を一定にし、夜更かしを減らしましょう。
夕方以降のカフェイン、就寝前の飲酒、寝床でのスマートフォンは、眠りを浅くする原因になります。
大きないびきや睡眠中の呼吸停止を指摘されている場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。睡眠薬だけで対処せず、睡眠外来などへ相談してください。
筋トレと有酸素運動を行う
スクワットなどの筋トレと、ウォーキングなどの有酸素運動は、筋力や体重の管理、気分転換に役立ちます。
運動習慣がない人は、1日20分程度のウォーキングを週3回ほど行うことから始めましょう。
イライラした場所から一度離れる
怒りを感じた直後は、冷静な判断がしにくくなります。
家族や同僚へ強く言い返す前に、その場を離れ、ゆっくり呼吸する時間を作りましょう。「今は疲れているため、少し時間を置いてから話したい」と伝える方法もあります。
飲酒で気分を紛らわせない
お酒を飲むと一時的に気分が楽になることがありますが、飲酒量が増えると睡眠が浅くなり、翌日の疲労やイライラが悪化します。
寝酒が習慣になっている人は、飲まない日を作りましょう。
家族に体調の変化を伝える
男性更年期の症状を自分だけで抱え込むと、家族は「急に性格が変わった」と感じます。
「最近、眠れず疲れている」「更年期の可能性を調べている」と伝えることで、不要な衝突を減らせる場合があります。
男性更年期の治療方法
生活習慣の改善
睡眠、運動、体重管理、食事、飲酒量の見直しは、治療の基本です。
肥満、糖尿病、睡眠不足、強いストレスなどは、テストステロン低下や男性更年期症状を悪化させる可能性があります。
テストステロン補充療法
症状があり、血液検査でテストステロン低下が確認された場合は、テストステロン補充療法が検討されます。
日本では、テストステロン製剤を2~4週間おきに筋肉注射する方法などがあります。日本内分泌学会でも、診断された患者に対して、症状を確認しながらテストステロン補充療法を行う方法が紹介されています。
治療によって、意欲、性欲、疲労感、筋力、EDなどが改善する場合があります。ただし、イライラや気分の落ち込みが必ず改善するとは限りません。
主な副作用や注意点は次のとおりです。
- 赤血球が増えすぎる多血症
- ニキビや皮脂の増加
- むくみ
- 睡眠時無呼吸症候群の悪化
- 精子産生の低下
- 精巣の縮小
- 不妊への影響
将来子どもを希望している人は、治療前に必ず医師へ伝えてください。外からテストステロンを補うことで、精子を作る働きが低下する可能性があります。
治療中は、血算、肝機能、テストステロン値、前立腺に関する検査などを定期的に行います。
漢方薬
テストステロン値、体力、冷え、ほてり、疲労、不安などを確認し、漢方薬が使用されることもあります。
ただし、漢方薬にも副作用があります。複数の漢方薬を重ねると、甘草など同じ生薬を過剰に取る可能性があるため、自己判断で併用しないでください。
抗うつ薬や抗不安薬
気分の落ち込み、不安、不眠などの精神症状が強い場合は、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬などが使用されることがあります。
抗うつ薬によっては、性欲低下やEDが副作用として現れる場合があります。薬を始めてから性機能が低下した場合は、自己判断で中止せず、処方した医師へ相談しましょう。
ED治療薬
男性更年期にEDを伴う場合は、シルデナフィル、タダラフィル、バルデナフィルなどのED治療薬が使われます。
これらは陰茎への血流を助ける薬であり、イライラや気分の落ち込みを直接治す薬ではありません。
ED治療薬は性的刺激があって初めて働く薬であり、催淫剤ではありません。ニトログリセリンなどの硝酸薬とは併用できません。
個人輸入でテストステロン製剤などを購入する場合
個人輸入では、自宅から注文でき、国内では取り扱いの少ない剤形や含有量を比較できる点がメリットです。
一方、テストステロン製剤は、症状や血液検査を確認せずに使用すると、ホルモン量が過剰になり、副作用が起こる可能性があります。
購入前には次の項目を必ず確認してください。
- 有効成分
- 含有量や濃度
- 注射、ジェル、内服薬などの剤形
- 使用部位と使用回数
- 多血症、むくみ、ニキビなどの副作用
- 睡眠時無呼吸症候群の有無
- 前立腺や心血管疾患に関する注意点
- 精子産生や不妊への影響
- 製造元と成分表示
テストステロン値が正常な人が、気分を高める目的だけで使用することは避けてください。自己判断で増量したり、複数のホルモン製剤を重ねたりするのも危険です。
使用を検討する場合は、事前に血液検査を受け、治療中も定期的に多血症、肝機能、ホルモン値などを確認しましょう。
医療機関へ相談する目安
次のような場合は、泌尿器科、男性更年期外来、心療内科、精神科などへ相談してください。
- イライラが1か月以上続いている
- 家族や職場との関係に支障が出ている
- 気分の落ち込みや意欲低下が強い
- 性欲低下、朝立ちの減少、EDがある
- 強い疲労感や筋力低下がある
- 不眠が続いている
- 飲酒量が増えている
- 自分を責める気持ちが強い
- 消えてしまいたい、自分を傷つけたいと考える
自分を傷つけたい、死にたいという考えがある場合は、男性更年期かどうかを考える前に、精神科や救急医療へ早急に相談してください。
男性更年期とうつ病は症状が似ており、どちらか一方だけではなく、両方が重なっている場合もあります。自分だけで判断せず、症状の強さに応じて泌尿器科と精神科の両方へ相談することも大切です。
まとめ
男性更年期では、テストステロンの低下に加え、睡眠不足、疲労、仕事や家庭のストレスなどが重なり、イライラや気分の落ち込みが起こることがあります。
イライラは怒りや焦りとして現れやすく、気分の落ち込みは無気力、自責感、悲観的な考えとして現れやすい点が違いです。
ただし、男性更年期とうつ病は似た症状が多く、症状だけで見分けるのは困難です。性欲低下、朝立ちの減少、ED、筋力低下などを伴う場合は、テストステロン値を確認する意味があります。
治療では、睡眠、運動、体重、飲酒などの生活習慣を整え、必要に応じてテストステロン補充療法、漢方薬、精神症状に対する薬、ED治療薬などを使います。
イライラを性格の変化だと決めつけず、症状が続く場合は、男性更年期外来や泌尿器科へ相談しましょう。強い気分の落ち込みや自傷の考えがある場合は、早めに精神科や心療内科へ相談することが重要です。

