空腹になると胃が痛いのは胃酸が多いから?胃潰瘍との関係
医師・薬剤師監修
「お腹が空いてくると、みぞおちがキリキリ痛む」「何か食べると少し楽になる」と感じる方もいるのではないでしょうか。
空腹時の胃痛には胃酸が関係していることがありますが、「胃酸が多すぎるから痛い」と単純に判断することはできません。
胃や十二指腸の粘膜が傷ついていると、通常分泌されている胃酸でも痛みを感じることがあります。特に消化性潰瘍では、空腹時や夜間にみぞおちの痛みが出るケースがあります。
空腹時の胃痛を繰り返す場合は、胃酸の量だけではなく、胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍、ピロリ菌感染、痛み止めの使用なども確認することが重要です。
空腹になると胃が痛いのは胃酸が多いから?
胃酸が症状に関係している可能性はありますが、必ずしも「胃酸過多」が原因とは限りません。
胃では食べ物を消化するため、塩酸を含む胃液が分泌されています。一方、胃の粘膜には粘液などによって胃酸から自身を守る仕組みがあります。
この防御機能が低下したり、胃や十二指腸の粘膜に傷ができたりすると、胃酸による刺激を受けやすくなります。
NIDDK(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所)では、消化性潰瘍の腹痛は胃が空になっているときや夜間に起こる場合があり、食事によって一時的に軽くなる人もいるとしています。
つまり、「胃酸が多い」というより、胃酸の刺激を受ける粘膜側に問題が起きているケースもあるのです。

空腹時の胃痛は胃潰瘍のサイン?
可能性のひとつではありますが、空腹時に痛むだけで胃潰瘍とは診断できません。
消化性潰瘍とは、胃や十二指腸の粘膜が深く傷ついた状態です。胃にできれば「胃潰瘍」、十二指腸にできれば「十二指腸潰瘍」と呼ばれます。
日本消化器病学会では、2026年4月に「消化性潰瘍診療ガイドライン2026(改訂第4版)」を公開しています。消化性潰瘍の診療では、ピロリ菌感染、薬剤性潰瘍、出血など原因や合併症に応じた対応が行われます。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍では、次のような症状がみられることがあります。
- みぞおちの痛み・焼けるような痛み
- 胃もたれ
- 早く満腹になる
- 吐き気
- お腹の張り
- げっぷ
ただし、潰瘍があっても症状がほとんどない人もいます。
胃潰瘍と十二指腸潰瘍で痛むタイミングは違う?
一般的には、十二指腸潰瘍では空腹時や夜間に痛みが出て、食事をすると一時的に楽になるパターンがみられることがあります。
一方、胃潰瘍では食事によって胃酸分泌や胃の動きが活発になるため、食後に痛みが目立つ人もいます。
| 症状の出方 | 考えられる傾向 |
|---|---|
| 空腹時・夜間に痛む | 十二指腸潰瘍などでみられることがある |
| 食べると一時的に楽になる | 消化性潰瘍の一部でみられる |
| 食後に痛みが強くなる | 胃潰瘍などでみられることがある |
| 食事と関係なく繰り返す | 胃炎や機能性ディスペプシアなども考える |
痛む時間帯は診断の手がかりにはなりますが、「空腹時だから十二指腸潰瘍」と自己判断することはできません。
胃潰瘍・十二指腸潰瘍の主な原因は?
消化性潰瘍の代表的な原因は、ピロリ菌(Helicobacter pylori)感染とNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用です。
NIDDK(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所)でも、消化性潰瘍の最も一般的な原因として、ピロリ菌感染とNSAIDsを挙げています。
ピロリ菌感染
ピロリ菌が胃粘膜に感染すると、慢性的な炎症を起こし、胃や十二指腸の粘膜が傷つきやすくなることがあります。
潰瘍を繰り返す場合には、ピロリ菌の検査が行われることがあります。
NSAIDs
ロキソプロフェン、イブプロフェン、アスピリンなどのNSAIDsは、痛みや炎症を抑える一方で、胃粘膜を守る働きを弱めることがあります。
特に長期間使用している人、高用量を使用している人、複数のNSAIDsを併用している人では注意が必要です。

ストレスだけで胃潰瘍になる?
日常的なストレスだけで消化性潰瘍が起こると単純にはいえません。
以前は「ストレス=胃潰瘍」というイメージが強くありましたが、現在ではピロリ菌感染やNSAIDsが代表的な原因として重視されています。
ただし、ストレスによって胃の不快感や痛みが強く感じられることはあります。
また、胃に明らかな潰瘍などがなくても、みぞおちの痛みや胃もたれが続く「機能性ディスペプシア」という病気もあります。
検査で潰瘍が見つからないからといって、「気のせい」とは限りません。
空腹時の胃痛は何か食べれば治る?
食事によって一時的に痛みが軽くなることはあります。
しかし、食べることで症状が消えるからといって、原因が治ったわけではありません。
また、「牛乳を飲めば胃酸が中和される」「決まった食べ物を避ければ潰瘍が治る」といった方法が治療の中心になるわけでもありません。
NIDDK(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所)では、特定の食事療法が消化性潰瘍の原因・予防・治療に重要な役割を持つことは確認されておらず、潰瘍治療のために特別な食事を行うことは一般的に推奨されていません。
胃酸を抑える薬を飲めばいい?
胃潰瘍や十二指腸潰瘍では、胃酸分泌を抑える薬が治療に使用されます。
PPI(プロトンポンプ阻害薬)やP-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)などが代表的です。
ただし、ピロリ菌感染が原因の場合は、胃酸を抑える薬だけでなく、抗菌薬などを組み合わせた除菌治療が必要になることがあります。
また、NSAIDsが原因の場合は、薬の変更や中止を検討することもあります。
胃痛が続く場合は市販の胃薬だけで症状を抑え続けず、原因を確認することが大切です。
黒い便が出たら注意が必要
胃潰瘍や十二指腸潰瘍から出血すると、便が黒くなることがあります。
上部消化管から出血した血液は消化されることで、黒くベタベタしたタール状の便になる場合があります。
NIDDK(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所)では、黒いタール状便、血を吐く、コーヒーかすのような嘔吐物などを消化性潰瘍の合併症を疑う症状として挙げています。
次のような症状がある場合は、早急に医療機関を受診してください。
- 真っ黒でベタつく便が出る
- 赤い血を吐く
- コーヒーかすのようなものを吐く
- 突然非常に強い腹痛が出る
- めまい・ふらつき・失神がある
- 冷や汗や動悸がある
特に吐血・黒色便・突然の激痛は、出血や穿孔など緊急性の高い状態の可能性があります。
胃痛を繰り返す場合は何を調べる?
胃痛が繰り返す場合、医療機関では症状や服薬歴などを確認し、必要に応じて検査を行います。
主な検査には、
- 胃内視鏡検査
- ピロリ菌検査
- 血液検査
- 便検査
などがあります。
NIDDK(米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所)でも、消化性潰瘍の診断では、ピロリ菌検査や上部消化管内視鏡検査などが行われるとしています。
こんな場合は消化器内科へ相談を
一時的な空腹時の違和感だけであれば、必ずしも病気とは限りません。
一方、次のような場合は消化器内科などへの相談を検討しましょう。
- 空腹になるたびに胃が痛む
- 夜中に胃痛で目が覚める
- 胃痛が何週間も続く
- 食欲が低下している
- 少量食べただけで満腹になる
- 原因不明の体重減少がある
- 吐き気・嘔吐を繰り返す
- NSAIDsを頻繁に使用している
NHS(英国国民保健サービス)でも、繰り返す腹痛、治療しても続く胃もたれ、食欲低下、少量で満腹になる、意図しない体重減少などがある場合は医療機関への相談を勧めています。
まとめ
空腹時に胃が痛くなる場合、胃酸が症状に関係していることはあります。
しかし、「胃酸が多いから痛い」とは限らず、胃や十二指腸の粘膜が傷つき、通常の胃酸でも刺激を受けやすくなっている可能性があります。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍では空腹時・夜間の痛みがみられることがありますが、症状だけで診断することはできません。
空腹時の胃痛を何度も繰り返す場合は、ピロリ菌感染やNSAIDsの使用を含め、原因を確認することが大切です。
特に黒いタール状便、吐血、突然の激しい腹痛、めまい・失神などがある場合は、消化管出血や穿孔などの可能性があるため、速やかに医療機関を受診してください。

